高密度の世界では質量が減少する―理研などが観測に成功

【2006年12月8日】 毎日新聞が12月8日付で報じたところによると、理化学研究所京都大学などからなる研究チームが、高密度下では物質を構成する素粒子の質量が減少することを実験で確認した。近く米国の科学誌「フィジカル・レビュー・レターズ」電子版に掲載される。

理研が12月7日付で公開したプレスリリースによると、物理法則の基本的な理論とされている標準理論では、ヒッグス機構により物質の質量が説明されるが、これでは陽子中性子を構成するクォークの質量のうち2%しか説明できない。現在の理論では、真空中はクォークと反クォークのペアで満たされており、その抵抗によってクォークの質量の大部分が生まれているとされている。このクォーク・反クォークのペアは宇宙が生まれた直後の高温、高密度の状態では存在せず、その後宇宙が膨張、冷却する過程で発生したと考えられている。

研究チームは、原子核内部が天然の高密度空間であることを利用し、この中でφ中間子という、ストレンジクォークと反ストレンジクォークからなる粒子の質量を測定することによってこの理論を検証した。φ中間子はなどの原子核に陽子をぶつけることで生まれるが、この粒子は1.5×10-22秒という短い時間で崩壊する。この崩壊によって生まれる電子陽電子のペアを測定することによってφ中間子の質量を調べることができる。もしφ中間子が原子核内部で崩壊したなら、その質量は真空中のそれよりも小さく観測されるはずである。実際に測定してみたところ、確かに質量は3%ほど減少していた。

プレスリリースによると、今回の実験は宇宙誕生直後の高温、高密度の世界では物質の質量がほぼゼロだったとする理論予想を支持するものであり、今後は質量の起源についての理解が急速に深まることが期待できるという。

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